セキュリティ対策の費用は誰が負担するのか|取適法で変わった発注元との価格交渉(SCS評価制度)

発注元と受注側が対等に握手し、費用の書類と天秤が並ぶイラスト

この記事のポイント(結論を先に)

  • 対策にかかる費用は、発注元との価格交渉の対象になります。国の解説は「価格交渉の申出があった場合には、その申出に応じる必要があります」と明記しています(経済産業省・公正取引委員会、2025年12月26日)。
  • SCS評価制度は任意の制度で、申請の受付はまだ始まっていません。★3・★4は2026年度末頃の開始を目指す段階です。「今すぐ取らないと取引できない」という勧誘には、経済産業省が注意喚起を出しています。
  • 2026年1月、下請法は「取適法」になりました。協議に応じない一方的な代金決定が禁止行為に加わり、価格協議を求めること自体に法律上の後ろ盾があります(公正取引委員会)。

 取引先から「SCS評価制度に対応してほしい」と言われました。まず押さえる点は3つあります。

  • この制度は任意で、国が取得を義務づける規制ではありません
  • 申請の受付はまだ始まっていません(2026年度末頃の開始を目指す段階)
  • 対策にかかった費用を発注元と価格交渉することを、国は正面から想定しています
目次

結論:対策費用は価格交渉の対象になる

 根拠は、経済産業省と公正取引委員会が2025年12月26日に公表した「想定事例」と、その「解説」です。解説にはこう書かれています。「発注側企業としては、取引の相手方から、製品・サービスの価格への間接経費の転嫁について価格交渉の申出があった場合には、その申出に応じる必要があります」(経産省・公取委、2025年)。要請された側が費用を黙って飲み込む、という前提に国は立っていません。

SCS評価制度とは何か(任意の制度、受付は未開始)

 正式名称は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」、略称がSCS評価制度です。サプライチェーン(部品や役務が流れる取引のつながり)全体で対策の水準を上げるため、各社の対策状況を共通の基準で見えるようにする仕組みです。経産省と内閣官房国家サイバー統括室が検討し、2026年3月27日に「制度構築方針」が公表されました。運営はIPA(情報処理推進機構)が担います。

論点経済産業省が公表している内容
位置づけ任意の制度。「本制度として何らかの規制を課すものではありません」
段階★3・★4に区分(★5は今後検討)。★3は専門家の確認付き自己評価、★4は第三者評価機関による評価
開始時期★3・★4は2026年度末頃の制度開始(申請受付の開始)を目指す。「制度運営基盤の整備状況等により変更となる可能性があります」
製品の導入評価基準の達成にあたり「特定のセキュリティ対策製品の導入が必須とされているものではありません」
取得企業制度開始は申請受付の開始を意味し、開始時点で★を取得している企業は存在しない

 この表が効く場面があります。「今すぐ取得しないと入札から除外される」といった営業を受けたときです。経産省と内閣官房国家サイバー統括室は2026年4月27日、まさにそうした勧誘が報告されているとして注意喚起を出しました。制度が任意であること、特定製品の導入は必須でないことを明記し、IPAから正しい情報を入手するよう呼びかけています。焦って契約する理由はありません。

国が示した「問題とならない」進め方

 想定事例は、A大企業がB中堅企業に★4相当の対策を要請し、BがさらにC中小企業へ同様の対策を求める、という筋書きで書かれています。発注側Aの進め方は次のとおりです。

  • 経営層の関与の下で、協議を求められた場合の対応や丁寧な対話を含む自社の対応方針を定めました
  • 取引先向けの説明会を開き、講じるべき対策と具体的な方法を説明しました(従業員教育やポリシー策定はIPAのコンテンツ・ひな形を提示)
  • 費用負担の考え方と、対策に要した費用も価格交渉の対象になることを説明し、要請があれば積極的に対応すると周知しました
  • その後も年に一度、説明会を開くこととしました

 受注側のB・Cは、実施した対策の費用について具体的な負担分を検討し、それぞれ価格交渉を申し入れました。結果は円満に合意し、「その結果を双方が書面に記録して保存した」と結ばれています。解説は、こうした行為を取った場合、通常は独占禁止法および取適法上の問題は生じないと考えられる、としています。

 裏を返せば、協議の機会を設けないまま価格を据え置く、算定根拠が不明なセキュリティ対策費を負担させる、必要がないのに指定の商品・サービスを買わせる、といった進め方は問題となり得ます(経産省・公取委、令和4年10月28日公表・令和7年12月26日更新)。

 実務で効くのが想定事例の(6)です。対策を要請していない別の取引先に対しても、中小企業の側から価格交渉を申し入れる場面が描かれています。相談先として、公正取引委員会の相談窓口と、全国中小企業振興機関協会の「取引かけこみ寺」(中小企業庁の委託事業)が挙げられています。

2026年1月、下請法は「取適法」になった

 2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)の改正法が施行され、法律名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:取適法)に変わりました。受注側にとって大きいのは、禁止行為に「協議に応じない一方的な代金決定」が加わったことです。

 公正取引委員会のリーフレット(令和7年8月)は、これを「中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定すること」と説明しています。適用対象は取引の内容と、資本金基準または従業員基準(300人・100人)で決まります。従来の資本金基準に、従業員基準が追加されました。価格協議を求めること自体に、法律上の後ろ盾があります。言い出しにくさを理由に黙るのが、いちばん損をします。

発注元と話す前に、中小企業がやること

  • 要請の中身を文書で受け取ってください。★いくつ相当か、期限はいつか、根拠は何か。口頭のままにしないでください
  • すでにできている対策を洗い出します。従業員教育や社内規程の整備は、IPAが公開する教材やひな形を使えば費用が発生しない場合があります(想定事例にもその例があります)
  • 追加費用を分解して見積ります。初期費用・月額費用・社内の工数(人件費)に分け、労務費や一般管理費といった間接経費として整理します
  • 価格交渉を申し入れ、合意内容を書面かメールで残します。次回以降の交渉の土台になります
  • 応じてもらえない場合は、公正取引委員会の相談窓口、または取引かけこみ寺に相談してください

 当社が顧客に見積を出すときも、初期費用・月額・工数は必ず分けて書きます。分けていない見積は「高いか安いか」の話で終わり、どこを削れるかの議論に入れないからです。発注元に費用を説明する側に回っても、この分け方はそのまま使えます。

 支援策も動いています。IPAは2026年7月13日、「サイバーセキュリティお助け隊サービス(新類型)」の実証事業に参加するサービス提供事業者の公募を開始しました。さらに8月28日にはSCS評価制度の基本規程等を公開しています。一方、★3・★4の申請受付はまだ始まっておらず、IPAのFAQは2027年3月頃の運用開始、要求事項・評価基準の解説書と取得ガイドは2026年10月頃の公表予定としています。要請内容の確認、現状把握、費用の整理、交渉という順番は、制度開始を待たずに進められます。

 交渉と並行して進められる準備もあります。費用をかけずにできる現状把握と規程づくりの手順は、SCS評価制度の★3に備える|費用をかけずにできる準備にまとめました。

 取引先から受けた要請の整理や、対策費用の分け方で判断に迷う場合は、30分の無料相談をご利用ください。

参考・出典

この記事に関連するよくある質問

取引先からセキュリティ対策を求められました。その費用は当社が負担するのですか?

対策にかかる費用は、発注元との価格交渉の対象になります。経済産業省・公正取引委員会が2025年12月26日に示した解説では、受注側から価格交渉の申出があった場合、発注側企業はその申出に応じる必要があるとされています(出典:「サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ向上のための取引先とのパートナーシップ構築促進に向けた想定事例及び解説」)。一方的に費用を押し付ける取引は問題となり得ます。

発注元に価格交渉を求めること自体に、問題はありませんか?

問題ありません。2026年1月、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」になり、協議に応じない一方的な代金決定が禁止行為に加わりました。価格協議を求めることには、法律上の後ろ盾があります。

SCS評価制度は、いま取得しないと取引できなくなりますか?

現時点で申請の受付は始まっていません。★3・★4は2026年度末頃の運用開始を目指す段階です。「今すぐ取らないと取引できない」といった勧誘には、経済産業省が注意喚起を出しています。

その他のご質問はこちら(よくある質問の一覧)

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